セレモニー

 

 平成3年に生まれた女の子は、5-6歳までは間違いなく、自分のものだと思ってました。可愛くて可愛くて仕方ありませんでした。小学校へ入っても、中学生になっても、まだまだ半分ぐらい私のものだと思ってましたが、徐々に距離感が出てきて、大学生の頃には、地理的な問題だけでなく、ちょっと遠くへ行ってしまいました。やがて、彼が出来て、気がつくと同居を始め、その後籍を入れ、そして昨日結婚式を挙げました。順番が私の考えているものと真逆なのですが、今どき仕方ないのかもしれません。女の子はもう5歳じゃないので、自分の考えを押し付ける訳にもいかず、見守ることにしました。

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 武漢発の新型コロナウイルス感染が世界中に広がり、感染の中心が、中国及びその周辺国からやがて欧米へと移っていき、新婚旅行も直前になって中止となりました。ただ、結婚式は下鴨神社だし、披露宴は、高野川沿いの京都の小さな料亭の、換気のよさそうな(密閉感に乏しい)大広間に、親兄弟親戚と友人数人という小規模なので、大丈夫だろう・・・とのんきに構えていましたが、直前になって感染のフェーズがワンランク上がったようで、東京でオーバーシュートのリスクが語られるようになり、大阪でも急増の気配があり、週末は行動自粛要請が出されました。
 ただ、女の子は、桜が咲き誇る京都で、世界遺産下鴨神社で結婚式を挙げて、その後高野川沿いの歴史のある料亭で披露宴を挙げたいと願っている筈で、生涯一度の大切なこの日を無事に終えることができるように、毎日、感染者数をチェックしつつも、安倍さんが非常事態宣言でもしない限り、中止指示は出せないなあと思ってました。
 当日、雨の予報が出ていたのに、早朝の支度時間帯から雨はやみ、披露宴終了までの間、奇跡的に雨のない状況に恵まれ、無事最後まで滞りなく終えることができました。
 
 女の子は、1時間以上かけて、白無垢に着替え、髪型をセットして、化粧もバッチリ決めて、出てきました。この日の為に買ったカメラで、バシバシ撮りまくりました。下鴨神社の控室で女の子の顔をアップで撮ろうとすると、急にピントが合わなくなりました。シャッターは切れるので、カメラはちゃんと仕事している筈なのですが、ピントが合わない。合っているのか合ってないのかわからない。まさか・・・。まだ結婚式は始まっていないのに、涙腺が暴走しそうで、驚きました。いくらなんでも早すぎる・・・ちょっと気を許すと号泣してしまいそうでした。
 あの白い着物は駄目です。小さい頃間違いなく、私のものだった女の子は、徐々に私から遠ざかっていきましたが、白い着物を来た瞬間、完全に私から離れていった気がしました。優秀な眼科医である私は、医学知識を駆使して、暴走しそうな涙腺をコントロールしつつ何とか泣き崩れることなく、最後まで過ごす事ができました。
 親への贈り物の中に、女の子の手紙が入っていましたが、もし披露宴であれを読まれたら、私の涙腺コントロールは完全崩壊していたのは間違いないです。

 カメラの中の大人になった女の子は、とっても可愛かったです。もういつ死んでもいいと思いつつある父は、娘の幸せを願っています。

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